「学生生活を通して、地道に物事を解決する力を培いました」〜大学院工学研究科応用化学専攻・橋本彩奈(はしもと・あやな)さん〜
1887年に哲学者・井上円了(いのうえ・えんりょう)博士が創立し、2027年に創立140周年を迎える東洋大学。哲学を柱とする創立者の精神を受け継ぎながら、新たな価値を創出することを目指し進化を続けているが、その一つが2025年4月からスタートした「総合知」教育である。自前で開発し実装した「総合知アプリ®」を利用し、学部での学びに加えて異分野の学びを可能とする仕組みと、授業期間の変更を活用した、多様な活動に従事する体験的学修への挑戦である。矢口悦子学長、そして新しい仕組みを活用して学ぶ学生に話を聞いた(写真は矢口悦子学長)。
物事を多角的にとらえ、自ら判断する力を養う
東洋大学は、東京都文京区白山を本部とする私立大学で、ほかに赤羽台(東京都北区)、川越(埼玉県川越市)、朝霞(同朝霞市)合わせて4キャンパスを構えている。学生数は約3万人にのぼり、14学部の幅広い学びを提供。白山キャンパスにはイブニングコース(第2部)もあり、国内最大規模となる6学部8学科を擁している。
2025年4月からスタートした「総合知」教育について、矢口学長は次のように語る。
「『総合知』とは、専門的な知識に加え、他者の意見を取り入れながら多角的な視野で物事をとらえ、総合的に判断する力を意味します。現代社会は、民主主義の危機、AIの急速な進化、地球規模の異常気象などに直面し、これまで以上に予測困難な時代を迎えています。そのような時代のなかでは、一言で「これが正解です」「こういう力を持っていれば生きていけます」と言うことが非常に難しくなっています。では、どうすればよいか。本学は4つのキャンパスに合わせて14学部を擁し、広い学問領域をカバーしています。多様な専門性に根ざした知を学部、キャンパスを越えて提供し、学生に選択してもらったらどうだろうか。学生たちが自分なりに選び取り、自分なりの学びの道筋を作っていくことによって、「総合された知」が自身の中に根付いていく。現代の複雑で変化の激しい社会にあっては、そうして自ら判断して培った『総合知』こそが、人生を歩むために必要な力になるのではないかと考えたのです」

「総合知」教育の発想は、2020年に始まったコロナ禍が契機となった。当時、従来の対面による講義からオンラインへの移行が急激に推進された。そのなかで、「自分のキャンパスで開講していない先生の講義も履修したい」という学生の声があり、「オンラインを活用すれば、キャンパスや学問領域の枠を超えた学びが提供できるのではないか」という考えに発展。教員と職員との協力のもと、2年以上かけて「総合知」教育は準備された。
14学部・約600の専門科目が履修可能
「総合知」教育とは、所属する学部での学びに加えて、他学部の科目を柔軟に学べる東洋大学独自のカリキュラムで、全14学部・約600の膨大な専門科目が対象となる。全学部共通の「全学基盤教育科目」「全学共通教育科目」として開講し、学生は自身が所属する学部の専門科目とは別に、興味や関心に合わせて学部やキャンパスを横断する履修が可能となった。

学生からは、「科目の選択肢が豊富になった」と好評で、昼間部の学生の2割以上、イブニングコースの学生の4割以上が、自身の所属学部と異なるキャンパスの科目を履修しているという。例を挙げると、川越キャンパスにある理工学部の学生が白山キャンパスのドイツ語を履修する、イブニングコースの学生がイブニングコースを置いていない学部から提供された科目を履修する、などだ。
「いまやりたいことがわからない学生も、多様な科目を学ぶなかで、自分で想定していたものとは異なる進路が見えてくるかもしれません。そんな気づきにつながればいいなと思います。『総合知』教育によってこのように多様な学びが可能となったわけですが、その中核にあるのは『諸学の基礎は哲学にあり』という本学の建学の精神です。物事の本質を考える、批判的に考える、真理を探究する、という“哲学する”姿勢は、どの科目においても共通しています。学生の皆さんにはこの『総合知』教育により、生きていくうえでの哲学、そして信念と呼べるようなものを作り上げていってほしいと思います」(矢口学長)
「総合知アプリ®」で学生の学習計画をサポート
「総合知」教育により科目の選択肢が広がるのは学生にとって大きなメリットだ。しかしその一方で、「600もの科目の中から選ぶのは大変」「学習計画を立てるのが難しい」という声が上がることもあらかじめ予想できた。そんな学生をサポートするために、同学は自前での開発により、AI搭載の履修支援ツール「総合知アプリ®」を開発した。学生の属性や専門性を踏まえて、AIが興味関心に合った科目を提案するというものだ。
「このアプリでは、AIと対話しながら自ら科目を選択し、学習計画を立てていくことができます。学生が3万人いれば、その数だけ学習計画がある。私たちはそれを『3万人のラーニングジャーニー』と呼んでいます。言わばこのアプリは、学生の思い描く知の旅へ歩みを進めるコンパスの一つと言ってもよいでしょう」(矢口学長)

学部を超えた学びを支援。自分の個性と向き合い、科目選択をデザインする
アプリ内には、「Collection」「Simulator」「Navigator」という3つのメイン機能が実装されている。「Collection」では、「総合知」を活かしたキャリアを歩んでいる卒業生の事例を紹介。「Simulator」は、自分の専門分野、興味のある学問分野、将来実現したいことなどを設定すると、キャリアや活躍の場をAIが生成し提案してくれる。「Navigator」では、興味を持つ分野などに対して、具体的な履修科目が検索できる。
アプリは開発段階でテストした学生の声を取り入れつつ、修正を重ねて完成。リリースから1カ月で4,700人のアクセスがあり、学生からは「AIからの提案を受けて、新しいキャリアの可能性に気づけた」「意外な科目の組み合わせで、自分にはない視点が新鮮だった」など好意的な声が多く寄せられた。
AIが提案する将来像や履修科目は、あくまで選択肢の一つ。これをきっかけに先輩や先生に相談し、最終的には自分で決めることになる。今後も、学生の自主的な学びを後押しできるように機能を充実させていく予定だという。
通常授業と課外活動の両輪で「総合知」を伸ばす
東洋大学では2026年度から、授業期間の変更を予定している。各学期の授業期間を15週から13週に変更し、この期間内に13回の通常授業と、オンデマンド授業や学外での体験学習などで2回分の授業を行う「13+2」という学びだ。通常授業以外の期間が増えることで、学生は海外インターンシップやボランティアなど課外活動に取り組みやすくなる。矢口学長は「課外活動も多様な学びを得る貴重な機会」ととらえ、通常授業との両輪で「総合知」を伸ばすための改革と位置付けている。
「学生に求めるのは、心、考え方、行動、あらゆる面において“しなやか”であることです。主体性を持ちながら、柔軟で偏りのない人でいてほしい。ボランティアやSDGs活動などに参加し、誰かのために行動することで感謝され、喜びを感じる。さまざまな経験や他者との関係を通して自分の考え方や大事に思うことを自覚する。その積み重ねが主体性を育み、困難な状況においても折れることのないしなやかさを形成してくれるはずです」

矢口学長は受験生に向けて、次のようなメッセージを送ってくれた。
○パターン①
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん
「本学は4キャンパスに専門性の高い教員が数多くいますし、さまざまなことに挑戦できるフィールドを用意しています。すべてのキャンパスを利用し、多様な領域の教員たちから学び尽くす。それくらいの気持ちで、本学の『総合知』教育を楽しんでください。皆さんを、心からお待ちしています」
○パターン②
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん
「本学は4キャンパスに専門性の高い教員が数多くいますし、さまざまなことに挑戦できるフィールドを用意しています。すべてのキャンパスを利用し、多様な領域の教員たちから学び尽くす。それくらいの気持ちで、本学の『総合知』教育を楽しんでください。皆さんを、心からお待ちしています」
○パターン③
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん

○パターン④
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん
高校を卒業した後、調理の専門学校で1年間和食を学び、さらに1年かけてオーストラリアへワーキングホリデーに出掛けました。現地では、最初の半年はホームステイをしながら子どもたちの送り迎えや家族の夕食を作って過ごし、残りの半年は日本料理店で寿司を握っていました。
○パターン⑤
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん
○パターン6
「総合知」教育を受けている学生に聞きました──
「文系に偏らず、理系や芸術の分野も。興味関心が幅広い僕にピッタリの学びです」
~国際学部国際地域学科 イブニングコース1年 田中匠海さん
帰国してから、東洋大学を受験。オーストラリアで磨いた英語力を強化したいと思い、国際地域学科を選びました。イブニングコースなので、昼間は建築系の会社で働き、夕方から大学で勉強という日々を送っています。
ゼミでは東日本大震災の復興について学んでおり、2月には岩手県へ行く予定です。地元の小学生と触れ合ったり、農作業をお手伝いしたりして、地域の方々の役に立てればうれしいと思っています。
国際地域学科の科目は興味深いものばかりですが、他学部の科目も受講しています。「データサイエンス概論」「AI基礎」「物質の科学」「プロジェクトゼミナール」「美術史」「日本美術史」などで、白山キャンパスのほか、川越や、昼間に開講される講義も選択しています。国際学部は文系の学部ですが、こうしてみると理系や芸術分野が多く、興味関心があちこちに向いていて自分らしいかもしれませんね。
いろいろな授業を受けてみると、先生の個性がバラエティーに富んでいて、すべての授業が面白いです。「物質の科学」は生活に密着したテーマで、文系の僕にもわかりやすく、時間が経つのが早いです。「プロジェクトゼミナール」ではプログラミングを学び、普段使わない数学脳が働いている感じがして、もっと学びたいという気持ちになります。
このように自分に合った科目が選択できたのは、「総合知アプリ®」のおかげです。自分のデータを設定すると、「Simulator」から、「あなたの経験からわかる強み」「AIが見つけたキャリア」「こんな活躍をしているかもしれません」と細かい分析結果が出て、それに合った科目も提案されました。自分の未来像の可能性を教えてもらい、今まで気づかなかった選択肢の幅が広がったことを感じます。
来年は「哲学」を選択してみようかと考えています。興味関心に一貫性がありませんが、そういう僕だからこそ、いろんな先生に出会って勉強し、進路を決めていきたい。「総合知」教育を打ち出す本学なら、それができると信じています。
https://www.toyo.ac.jp/東洋大学「総合知」教育
https://www.toyo.ac.jp/toyo2025/highlights01/
入試情報サイト「総合知」教育
https://www.toyo.ac.jp/nyushi/about/convergence-of-knowledge/
取材/内藤綾子 撮影/中庭愉生 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ
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