確認用)学科制から「課程制」に移行して2年。その効果と学生たちの反応は?――芝浦工業大学工学部
2026/06/02
芝浦工業大学工学部は2024年度から学科制を課程制へ移行した。一つの専門分野だけでなく、複数分野にわたる知識を横断的に学べるカリキュラムを提供し、現代社会の複雑な課題を解決できる技術者の育成を目指している。スタートから2年、課程制の効果や学生たちの反応はどうか。芝浦工業大学工学部長・苅谷義治教授に話を聞いた(図版提供:芝浦工業大学)。
学生の3割以上が他コースの授業を履修
芝浦工業大学工学部では課程制への移行に伴い、「機械工学課程」「物質化学課程」「電気電子工学課程」「情報・通信工学課程」「土木工学課程」の5課程を設置。各課程内に合計9つのコースを設けた。
学生は自身の専門コースに主軸を置きながら、他コースの授業も自由に履修することができる。履修のモデルとして、各分野の専門科目をテーマごとに19のグループに分け、「その分野の知識を身につけるために必要な最小セット」(分野別科目群)として提示した(分野にこだわらず、複数コースから履修することも可能)。条件を満たせば「副コース」の修了認定(※1)を受けることもできる。
(※1)自コース以外の分野を体系的に履修したことを大学が公式に認める制度。一つの分野別科目群から10単位を履修し、該当分野の研究室で一定の活動を行い(学内研究留学2単位)、合計12単位を取得することで認定される
2024年4月入学の1期生の他コース履修件数は、1年後期時点で128件、2年前期時点で293件に達した。同学年の学生約1000人のうち、およそ3割の学生が入学時に選択した専門以外の領域を学んでいることになる。
「私が担当している1年次での授業では、130人余のうち約30人が他コースからの履修者でした。予想以上に多くて、驚きましたね。学生からは『副コース取得を目指して履修した』『他コースの授業をもっと多く履修できるカリキュラムにしてほしい』という声が多く聞かれました。こうした反応を見ると、課程制であることを前提に本学に入学した学生が相当数いると感じています」と、苅谷学工学部長は言う(以下、同)。

企業も評価するカリキュラム
課程制の狙いは、複雑化する社会で活躍できる技術者を育成することにある。
「例えば今の自動車は機械、電気だけでなく、自動運転に必要な情報技術など、いろいろな分野の技術が導入されています。つまり自動車に関連した企業で働くのであれば、いろいろな専門分野の知識、技術を身につけていることが大きな武器となるわけです。課程制のもう一つの狙いは、『主体性の育成』です。多くの専門科目の中から何が必要かを自ら考え、履修する。そうした行動を通じて、生きる力が養われていくと考えます。課程制に関しては企業からも好評で、専門の幅を広げることが就職活動にプラスになっていることは間違いありません」

3年目となる2026年度からは、課程制1期生の卒業研究が始まる。自コースの研究室に入り、2年間にわたって研究活動を行うが、希望すれば、他コースの研究室に約半年間所属する「学内研究留学」も可能だ。
「従来の知識伝達型の授業であれば、AIが代替できる部分もあるでしょう。わからないことはAIが即座に教えてくれる時代ですからね。しかし、研究には正解がありません。学生自身が考え、手を動かす必要がある。だからこそAI時代は研究への取り組みがなおさら重要になると考え、3年次から卒業研究を始めることにしました。この2年間は比較的ゆとりのあるスケジュールで、実験手法など研究に必要な基礎を学ぶことから始め、学内研究留学にも参加しやすい設計にしています」
進路選びに迷っている受験生にこそすすめられる
学内研究留学では、通常の授業では履修できない「先進国際課程」の研究室を選択することも可能だ。英語による特別プログラムで工学を学ぶ同課程には、多くの外国人教員が在籍しており、留学と同等の学びが得られるという。なお、課程制では必ずしも他コース履修は必須ではなく、一つの専門分野を極めたい学生には「自コース完結型」カリキュラムも用意されている。
課程制については保護者からも好評だ。オープンキャンパスに高校生の子どもと一緒に参加した保護者からは、「自分が何をしたいのか迷っている高校生にとって、課程制は良い」という意見が多いという。また、技術職の保護者からは「現場ではいろんな分野を学んだ人材が求められているので、課程制は非常に良い取り組みだと思う」という声が寄せられているという。
「課程制では、入学したコース以外の専門分野を柔軟に学ぶことができます。だから、進路に迷っている人、工学に少しでも興味がある人は、ぜひ本学を検討していただきたい。工学は技術によって社会を変え、人類に貢献できる魅力的な学問です。『工学部は勉強が大変』というイメージがあるかもしれませんが、本学のカリキュラムは柔軟で、楽しみながら学べる仕組みになっています。安心して芝浦工業大学に来てください。教員一同、皆さんをお待ちしています」
「課程制」で学ぶ学生に聞きました――
「他コースの学びが専門分野に生かせることを発見しました」
工学部土木工学課程都市・環境コース2年・室谷彩花さん

小さい頃から建物に興味があり、テレビのリフォーム番組を夢中になって見ていました。やがて建築の仕事に憧れるようになり、高校に入ると「地図に載るような大きな建物づくりに関わりたい」と思うようになりました。進学先を探す中で第一志望に選んだのが、芝浦工業大学です。工業大学でありながら海外留学プログラムが充実し、国際化に力を入れていること、女性技術者の育成に積極的に取り組んでいること、そして決め手となったのが「課程制」です。自分の専門だけでなく、他の分野も体系的に学べる仕組みが整っている点に強く惹かれました。
一方で、中学・高校と私立の女子校に通っていた私は、男子学生の多い工業大学に不安もありました。しかし、オープンキャンパスで対応してくださった女子学生の先輩が、不安や疑問に一つひとつ丁寧に答えてくれて、「ここなら大丈夫」と安心しました。
入学後に課程制の履修方法についてガイダンスがあり、自分の興味を踏まえて選択したのが「物質化学課程 環境・物質工学コース」です。3科目を履修しましたが、特に印象に残っているのが「塗料・塗装工学概論」です。この授業では、さまざまな製品に使われる塗料や塗装について、構成する有機材料の特性や施工時の工学的技術などを学びました。塗料には美観を整える役割だけでなく、修繕や防食、保温などいろんな働きがあることを知ったのは、大きな発見でした。自分のコースとは関係なく、純粋な興味から履修した授業でしたが、あるとき「この技術は土木分野にも応用できるのではないか」と気づいた瞬間がありました。自分の専門と他分野の知識が結びついた感動は今でも忘れられません。
本学は、男女の壁を感じることなく、気軽に話せる温かい雰囲気があるのも魅力だと感じています。私も授業やサークル活動を通して、多くの友人に恵まれました。所属している「土木サークル」では、大手建設会社の建築現場を見学する機会があり、実社会とのつながりを実感することができました。
勉強を重ねる中で、将来の目標が少しずつ具体的になってきました。今は、人が安全・快適・便利に暮らせるまちをつくる「都市計画」に関わる仕事に就きたいと考えています。特に、子育て世代が安心して暮らせるまちづくりの設計に携わることができたらうれしいですね。
3年生からは卒業研究が始まります。自分の専門を深められる研究室への所属以外に、可能であれば「学内研究留学」に挑戦し、「副コース修了認定」の取得も目指したいと考えています。専門分野に軸足を置きながら、幅広い視点を持つ技術者になりたいというのが今の目標です。
学生同士がつながりやすく、多様な分野を横断的に学べる環境が整っていること、それが芝浦工業大学の魅力です。緑豊かな大宮キャンパスと近代的な豊洲キャンパス、どちらも個性があって、とても居心地がいいですよ。受験生の皆さんには、ぜひ安心して挑戦してほしいと思います。
芝浦工大の多様な学びを経て社会で活躍するOGに聞きました――
「ラオスでの教育支援や、教職課程の学びが今の仕事に生きています」
株式会社横河ブリッジ・近藤真央さん

もともと物理が好きで、その中でも身近な製品に関わることを学びたいと考えていました。高校の先生に相談したところ、薦められたのが「材料工学科」です。それから材料工学を学べる関東圏の大学を探し、オープンキャンパスに参加する中で、キャンパスの雰囲気が良かったことや、グローバル化に力を入れている点に魅力を感じ、芝浦工業大学を選びました。
材料工学科では主に材料の性質や物質科学、材料物理学について学びます。1~2年次の授業で特におもしろかったのは「材料力学」です。材料や構造物に力が加わったときにどのように変形するのか、壊れるのか、などを学ぶのですが、そうした現象を数式で表すことができる美しさに感動しました。卒業研究では材料力学をさらに深く学びたいと思い、この授業を担当されていた苅谷教授の研究室に入りました。卒業研究の題材は「はんだ合金のクリープ変形」。クリープ変形とは、材料に一定の力を加え続けた際、特に高温下において時間とともに変形が進行する現象で、私ははんだ合金に添加される元素に着目し、クリープ現象への影響を理論的に解明しました。
他に印象に残っているのは1年次に経験した「グローバルPBL」(※2)ですね。理数系科目の教育支援でラオスを訪れ、理科の実験を行いました。子どもたちが実験の様子に目を輝かせ、笑顔になる姿を見て感動し、2年次の終わりにも同じプログラムに参加しました。
(※2)海外協定校の学生とプロジェクトチームをつくり、さまざまな課題解決に取り組むプログラム。対象は学部1年生から大学院生まで。期間は約2週間~1カ月
一方で、卒業後の進路については迷い続けました。もともと教職を視野に入れていて、教育職員免許が取得できる科目を履修、教育実習を行い、最終的に中学校教諭一種免許状(理科・数学)と高等学校教諭一種免許状(理科・数学・工業)を取得しました。しかし、研究の面白さを知る中で、大学院への進学や技術職として就職する道も考えるようになりました。
就職活動を始めた後もなかなか答えが見つからずにいたのですが、そんなときに出合ったのが現在の会社です。横河ブリッジに就職した研究室の先輩から話を聞く機会があり、「橋梁」という地図に載るような建造物をつくる仕事だと知り、そのスケール感にワクワクしました。研究室のゼミナールでレインボーブリッジを見学したことや、パスタで橋の模型を作り、強度や変形などを解析したことなど、楽しかった記憶がよみがえりました。
入社後の研修では6カ月間、橋梁工事の現場に行きました。その後、橋の設計図を実際の製作につなげるための「原寸業務」を行う部署に配属され、2025年に海外事業部に異動となりました。橋梁事業ということで、職場には土木を専門とする人ばかりいるのですが、材料工学の専攻だった私にとっては未知の領域も多かったため、知識が追いつくまでに時間がかかりました。一方、会議などで何かを分かりやすく説明しなくてはいけない場面では、教育職員免許取得のために履修した授業の経験が役立ちました。現在の部署ではODA案件を中心とした海外プロジェクトの管理を行っていますが、これは学生時代のグローバルPBLの体験から、「ぜひやってみたい」と自分から希望し、実現したものです。
「この学びが将来何の役に立つのだろう……」と、学生時代に疑問や不安を感じていたことが、今になって生きていると感じています。まさに点と点が線としてつながったような感覚ですね。無駄な経験は一つもないということがよく分かりました。これからも興味のあることにはどんどん挑戦し、その中でワクワクする分野を見つけたら、そのエキスパートになりたいと考えています。
工学部は現在、課程制となり、複数の分野を横断的に学べる環境があります。入学したら、興味のあることにどんどん挑戦してほしいし、将来、世界を舞台に活躍できる土俵がここにはあります。親御さんも安心してお子さんを送り出せると思いますよ。

芝浦工業大学工学部
https://www.shibaura-it.ac.jp/faculty/engineering/index.html
芝浦工業大学工学部オリジナルサイト
https://eng.shibaura-it.ac.jp/
取材・文/狩生聖子 撮影/今村拓馬 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ
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