こぴぺてすと

2026/08/21

AIやデータサイエンスなどの先端技術が急速に進化し、社会のあり方が激変する現在。これからのエンジニアには、技術を「つくる」力に加え、その価値を社会に届け、人々と対話しながら活用する「つなぐ力」が求められている。そんな時代の要請に応え、2026年4月、九州産業大学に誕生したのが「スマートコミュニケーション工学科」だ。理工学の基盤を持ちつつ、文系・芸術系の素養を兼ね備えた、次世代の「テクノプロデューサー」を目指す新入生たちは、なぜ未知の新設学科に飛び込んだのか。新たな歴史を創り始めた3人の新入生と、彼らの志を支える理工学部学部長の橋口卓平教授、スマートコミュニケーション工学科主任の鴈野重之教授に、この学科が切り拓く「工学の未来」を伺った(写真は新入生の3人。右から清藤太門さん、松井美璃さん、山本亜弥さん)。

新設されたスマートコミュニケーション工学科に入学した新入生たちが新たな学びに挑戦しています。

「これからの社会はAIや情報をどう活用していくかが大切になる」
~清藤太門(きよふじ・たもん)さん

母校の宮崎北高校は、文部科学省から「スーパーサイエンスハイスクール(※1)」に指定されており、理数教育にとても力を入れている学校でした。私は普通科でしたが、理系科目が得意で、探究活動(ACT)も盛んな環境でした。そこで取り組んだのが、地元のプロサッカーチーム「テゲバジャーロ宮崎」と連携した地域活性化の研究です。思えばこれが「身近な課題から価値を創る」という、これから学ぶPBL(プロジェクト型学習※2)の原点だったのかもしれません。

(※1)スーパーサイエンスハイスクール(SSH)。大学や研究機関と連携して、先進的な科学技術・理数教育を行い、生徒の科学的な探究能力を養う文部科学省の取り組み。宮崎北高校は令和6~8年度に指定されている

(※2)実社会で解決すべき課題を学習者が自ら発見し、調査、検証、行動することで解決策を導き出す能動的な学習手法。アメリカの教育学者ジョン・デューイらの「経験学習」理論に由来する教育法で、知識の暗記ではなく、体験を通じて思考力や協働力を養うことを目的としている

理数系に興味を持ったのは、地元の放送局で報道の仕事をしている父の影響が大きいです。バリバリの理系大学出身で、AIやITにも詳しい父から「これからの社会は技術そのものだけでなく、AIや情報をどう活用していくかが大切になる。この学科なら先端技術とコミュニケーションをバランスよく学べるはずだ」と助言を受けたことが、スマートコミュニケーション工学科を志望する決定打となりました。さらに、新しい学科だからこそ、「新しい学科で、新しい学びを自分たちの手で創っていける」という開拓者精神に、強いやりがいを感じたのも事実です。

入学後のオリエンテーションや授業を通じて、先生方や周りの人たちも優しくて、安心して挑戦できる環境だと実感しています。現在はAIや情報系の科目を学んでいますが、将来のビジョンも少しずつ具体化してきました。これまでは観戦を楽しむ側でしたが、これからは「技術を使ってチームの勝利や地域を支える側」に回りたい。例えばAIを活用したデータ分析などで選手をサポートするような仕事にも興味を持っています。

また、父のようにマスコミの現場で情報を扱う仕事にも憧れがあります。プロとして仕事に向き合う父の背中を見て、その厳しさも知っているつもりですが、それ以上に「熱意を持って社会に貢献するプロフェッショナルの姿」を尊敬しています。どんな道に進むにしても、父のように熱意を持って、技術と社会をつなげる人間になりたいと思っています。

「技術の力で活躍できる人材になりたい」~松井美璃(まつい・みり)さん

高校は商業高校の特進クラスで、簿記や財務会計など「お金の流れ」を学ぶのが好きでした。一方で、幼少期から続けてきた空手で全国大会を目指すなど、体育会系の一面も持っています。

そんな私のもう一つの顔が、「モノの仕組み」に対する強い好奇心です。つい先日も、壊れた傘をあえて分解し、どのような構造で開閉しているのかをじっくり観察してしまいました(笑)。パソコンに触れるのも大好きで、自分の中では「商学よりも、理系のモノづくりに近いのかな」という思いを抱いていました。しかし、就職を推奨する商業高校から理工系大学への進学は珍しく、ロールモデルがいないなか、進路については一人で模索する日々が続きました。

そんな時、友人に勧められたのが九州産業大学でした。最初は商学部を検討していましたが、公式サイトで、理工学部に「文理芸を広く学び、いろいろな角度から課題解決を目指す」新学科ができることを知りました。興味を持ち、理工学部が独自に開催していた説明会(プチオープンキャンパス)に参加。先生方に直接相談できたことで迷いが消え、この学科に決めました。

もちろん、最初は家族に反対されました。商業高校からの理工系なんて、学費や一人暮らしも大変だと。それでも「自分の進みたい道をあきらめたくない」と熱意を伝え、認めてもらいました。入学直前まで「新しい学科なので先輩がいない」「勉強についていけるか」という不安はありましたが、丁寧なオリエンテーションと、先生方との距離の近さを実感した今、その不安は「期待」へと変わっています。

カリキュラムは理工系をベースに、デザイン系かマーケティング(経済)系か、自分が解決したい課題に合わせて選べます。私は「経済・マーケティング」の道を選びました。私はおじいちゃん子で、小さい頃から畑仕事を手伝ってきました。高齢の祖父の負担を少しでも減らすため、将来は「スマート農業」の技術を学び、実家の手助けをしたいと考えています。「技術の力で、誰かを笑顔にできる人材になりたい」。勉強はもちろん、サークルやアルバイトなど、このキャンパスで多くの友人と出会い、新しい自分へと成長していくことが楽しみで仕方ありません。

「物理学をベースに『仕組み』をデザインし、人を楽しませたい」~山本亜弥(やまもと・あや)さん

付属の高校特進クラスで学んでいた頃から得意の理数系科目と大好きなデザインを融合させた「芸術工学(※3)」という分野に強い関心を持っていました。

(※3)技術・工学的な機能性と、芸術・デザインの創造性を融合し、人間の暮らし、モノ・コトをより良く設計しようという学問分野

私は浪人生活を経験しましたが、その期間が私に大きな転機をもたらしました。物理専攻の先生との出会いを通じて、物理学の面白さにすっかり魅了されたのです。大学選びを再考する中で知ったのが、九州産業大学に新設される「スマートコミュニケーション工学科」でした。ものづくり、コミュニケーション、芸術分野を融合的に学べるカリキュラムは、私が求めていた「芸術工学」の理想に近いものでした。

本学の芸術学部も含めて進路を考えましたが、私の決断は揺らぎませんでした。自分のベースは、あくまでも「物理学」に置きたかったからです。理系の確かな基盤を持ちながら、同時に芸術系も学べる環境。全学部が1キャンパスに集結し、多様な専門性を持つ仲間や教員と日常的に出会える九産大だからこそ、私の理想とする学びが実現できると思いました。

本学科で特に楽しみにしているのは、4年間にわたる「PBL演習」です。知識を広く浅く得るだけでは、実社会での実装(社会実装)からは遠ざかってしまうのではないか――。そんな不安を抱いていた私にとって、情報と実践をつなぎ合わせるPBLの環境は、まさに求めていた「答え」でした。

この学科での学びを通じて、将来のビジョンも鮮明になりました。目指すのは、デザインの力で企業戦略を立案する「ストラテジスト(※4)」のような仕事です。形あるモノを作るデザインも素敵ですが、私はその根底にある「仕組み」そのものをデザインし、いつか多くの人を楽しませる人になりたいです。

(※4)経済動向や市場トレンドを分析し、投資戦略を立案・提言する専門家

理工学部学部長・橋口卓平教授、スマートコミュニケーション工学科主任・鴈野重之教授に聞きました。

「不確実な社会」への危機感から生まれた、理工学の再定義

橋口教授(左端)、鴈野教授(右端)と理工学部の学生たち。クリエイティブセンター「コラボリウム」で

新入生たちが語った「自ら歴史を創りたい」という熱意。その受け皿となる「スマートコミュニケーション工学科」が誕生した背景には、大学側の強い危機感があった。

九州産業大学は1960年の開学以来、「産業と大学は車の両輪のように一体となって社会のニーズを満たすべきである」という「産学一如」の精神を掲げてきた。現在は文系、理工系、芸術系の全10学部が一つのキャンパスに集結する強みを生かし、独自の「文理芸融合」教育を推進している。

2026年4月、理工学部は従来の枠組みを超えた再編を行い、「情報科学科」「機械電気創造工学科」に加え、「スマートコミュニケーション工学科」を誕生させた。情報科学科はさまざまな情報処理システムの開発・運用に携わる人材を、機械電気創造工学科がハードウェアのスペシャリストの育成を目指しているのに対し、スマートコミュニケーション工学科は理工学を基盤としながら文系・芸術系の素養を備え、技術とユーザーをつなぐコミュニケーションエンジニアの育成を目指している。

橋口教授はこの再編の背景をこう語る。

「背景にあるのは、テクノロジーが既存の枠組みを軽々と超えていく現代社会の『不確実性』への強い危機感です。生成AIの急速な普及に象徴されるように、従来の『機械』や『電気』といった縦割りの学問領域だけでは、複雑化する社会のニーズに応えきれなくなっています。そこで、工学の基盤を持ちながら、環境変化を機敏に感じ取り、多様な専門性を『つなぐ』ことで課題を解決できる人材が必要だと考えたのです。例えば現代の自動車は、機械や電気だけでなく、情報、通信、AIが複雑に組み合わさって機能しています。理工学の知識に加えてマーケティングやデザインなど、社会科学系の知見を備え、社会や顧客の視点からモノづくりをプロデュースできる人材。それこそがスマートコミュニケーション工学科が育てる『テクノプロデューサー』の姿です」

橋口卓平(はしぐち・たくへい)/2005年3月大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。九州産業大学工学部電気情報工学科准教授、同理工学部電気工学科教授を経て、2026年4月から理工学部スマートコミュニケーション工学科教授、理工学部学部長。専門はものづくり技術(機械・電気電子・化学工学)、 制御・システム工学、 電力システム制御

同学科のカリキュラムを見ると、「機械工学」「電気工学」「プログラミング」「データサイエンス」など理工学分野の基礎科目に加え、「マーケティング」「ベンチャービジネス」といった社会科学系科目が必修となっており、加えて「美術概論」や「色彩学」「ユニバーサルデザイン」といった芸術科目も設けられている。芸術科目は、九州産業大学の個性を際立たせている芸術系の教員が担当する。芸術学部は、美術や写真、映像からモノのデザイン、デザイン思考、さらには社会インフラなどを計画するソーシャルデザインまで広く学べる学部で、同学が進める「文理芸融合」教育の重要なピースとなっている。

「天気予報」に学ぶ、マーケットインの発想とPBLの学び

カリキュラムの柱は、4年間にわたって継続されるPBLだ。少人数のグループで年間を通じてさまざまなテーマに挑むこの手法は、文部科学省も推奨しているが、4年間の一貫したカリキュラムの中心に据えている大学は稀です。

図版提供:九州産業大学

「PBLの発想は、ビジネスの現場で日常的に活用されています。その一例が、私たちが毎日目にしている『天気予報』です」と、鴈野教授は言う。

「天気予報は、人工衛星やスーパーコンピューターを駆使した技術の結晶です。しかし、ユーザーが本当に知りたいのは『降水確率50%』という数値そのものではありません。『傘が必要か』『洗濯物を干せるか』という、生活に直結する価値なのです。従来の工学が技術を深めること(プロダクトアウト)に特化してきたのに対し、スマートコミュニケーション工学科では技術をユーザーのニーズにどうつなぎ、新たな価値を創るか(マーケットイン)を、実体験を通じて学びます」

鴈野重之(かりの・しげゆき)/2004年3月、東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了博士(学術)。九州産業大学理工学部電気工学科准教授などを経て、2026年4月から同スマートコミュニケーション工学科教授、学科主任。専門は天文学、科学教育

スマートコミュニケーション工学科の学びは、いきなり難解なテーマに取り組むのではなく、身近な課題から段階的にスケールを大きくしていく設計となっていく。

「まず1年次には、『新入生は昼食場所をどう見つけているか』といった自分たちの身近にある困りごとをテーマにスタートします。学食マップの作成や解決のためのアプリを考案するプロセスを通じて、エンジニアとしての土台となる『課題の見つけ方』を実践的に修得していきます。続く2年次には、その対象を教室やキャンパス全体へと広げ、より具体的な解決策を形にするための訓練を積み重ねます。そして学びの集大成となる3、4年次には、舞台を実社会へと移し、自治体や企業と連携しながら実際の社会課題の解決(社会実装)に挑みます。その代表例が、深刻な人手不足や高齢化に悩む農業の現場をAIやロボットで支援する『スマート農業』への取り組みです。こうして段階的にPBLの手法を学んでいくことで、さまざまな課題に対処できる力が身に付いていくのです」と、鴈野教授は言う。橋口教授もこう続ける。「自ら考えた課題解決のアイデアが実社会に役立つことが実感できると、自信につながります。4年間の中でそうした成功体験を何度も繰り返すことで自信が付き、人間としても大きく成長していくはずです」

「文理芸融合」の象徴、最新のモノづくり拠点「コラボリウム」

理工学部では、スマートコミュニケーション工学科の誕生に先立ち、2025年4月から情報科学・機械工学・電気工学・アート&デザインを融合的に学ぶ「スマートフュージョン(SMArtFusion)プログラム」を導入している。学生たちが分野を超えて交流し、アイデアを出し合ってモノづくりに挑むこのプログラムは、スマートコミュニケーション工学科の学生にとっても、自らの構想を社会実装するための貴重な実践の場となる。この「文理芸融合」を象徴する拠点が、クリエイティブセンター「コラボリウム」だ。

「ここでは、理工系の学生と芸術学部の学生が日常的に交流し、アイデアを3Dプリンターやレーザー加工機で形にしていきます」と橋口教授は語る。

「最大の魅力は、芸術系学部の教員から『デザイン思考』や『色彩学』を直接学び、感性を磨ける点にあります。エンジニアの論理的な思考に、アーティストの自由な発想が加わることで、一人では到底辿り着けない驚きや発見がもたらされる。この『化学反応』こそが、イノベーションを生む源泉となるのです。本学では以前から、芸術学部や企業と連携したロボット製作などで実績を積んできましたが、今後はこの取り組みを学部共通の正規プログラムとして、より強力に推進していきます」

「文理芸融合」教育のシンボル的空間となっている「コラボリウム」。作業環境が充実しており、学生たちが自由な発想で創造した製作物が多数展示されている

「テクノプロデューサー」として、あらゆる業界が活躍の舞台に

スマートコミュニケーション工学科が育てるのは、単なる作り手ではない。「習得した技術をいかに社会に実装し、新たな価値をプロデュースできるのか。そんな視点をもった人材が、今あらゆる産業界から切実に求められています」と橋口教授は期待を込める。

「卒業後の進路は、AI・データ分析企業やWEBサービス、広告・メディア業界はもちろん、次世代モビリティを開発する自動車業界、ロボットメーカー、エネルギー関連企業、さらには企業のマネジメント職まで、実に多岐にわたります。工学をベースに「社会とのつながり」を深く理解した人材は、特定の業種に縛られることなく、あらゆる現場でリーダーシップを発揮できるからです。本学科は、工学の素養を土台としながら関連分野の知識を融合して社会に貢献できる能力を養います。文系、理工系を問わず、社会をより良くしたいという意欲のある方は、ぜひ本学科を検討してほしいですね。まだ将来の目標が定まっていないという方も、幅広い学びの中で必ず自分の『武器』が見つかるはずです」

最後に鴈野教授は、受験生と保護者に向けて、次のようなメッセージを送ってくれた。

「現代はモノを『所有』することよりも、魅力的な『体験』に価値を見出す『コト消費』の時代と言われます。本学科の学びも、実体験を通じて課題を解決していくという点で、まさに『コト消費』的な側面を持っています。この時代に合った新しい学びのワクワク感を、ぜひオープンキャンパスで体感してください。新入生たちと共に、皆さんとお会いできるのを楽しみにしています」

<詳しくはこちらへ>

九州産業大学スマートコミュニケーション工学科
https://www.kyusan-u.ac.jp/faculty/rikou/smartcommu/
九州産業大学オープンキャンパス2026
https://mypage.s-axol.jp/kyusan-u/event/24
1pxの透明画像

記事のご感想

記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします

今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。

関連記事

注目コンテンツ

NEWS